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2006年2月 7日 (火)

交番から電話があって訪ねてきた少年は

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昭和四十九年(1974年)10月発行の12月号(No.21)の「編集室から」に、ぼくはこんなことを書いている。

「朝早く丸の内の交番から電話があった。何事かなと思ったら、耳の聞こえない、口がきけない少年が、第二書房を訪ねているので、道順を教えてくれとのことだった。

  やがて大きな鞄をぶら下げて、汗をふきふき少年がやってきた。生まれつき耳が聞こえないそうだ。だから口もきけない。取り出したノートに彼が字を書く。それにぼくが字を書いて答える。普通の人間にとっては、とても考えられない、まだるこしさだ。

  ぼくが文通欄の宛名書きをしている女房と話をすると、彼は聞こえないだけにひどく気にする。

  田舎では『薔薇族』が手に入らないので、それを買う目的と、前から本を読んでファンであるマンガ家に会うことが上京の目的だという。電話番号を調べてマンガ家に電話したら、留守だったので内心ほっとした。門前払いでもされたら、がっかりするだろうから。

  田舎で手に入らないという、そのマンガ家の本を買いに、下北沢の駅近くの書店に行った。帰りに入った喫茶店で、彼はクリームソーダを注文したが、最後の一滴まで、ものすごい音をたてて吸う。女店員が顔をしかめて彼の顔を見ていたが、彼には音が無縁なのだからしょうがないことなのだ。

  昼になったので食事をすすめたが、どうしても食べなかった。三階の誰もいない部屋で二人だけになって、ノートに字を書くと、やっとにこっと可愛い顔をする。

ホモ23歳、168cm、65kgの会社員。20歳までの人を求む。迷惑をかけません。

  どうしても文通欄に載っているその人を訪ねて行くといって聞かないのだ。「20歳までの人を求む。迷惑かけません」このたった2行の言葉に惹かれて、どれだけ長い間、彼の心は揺れ動いたことか。

  ぼくは必死だった。あくまでも手紙を回送して知り合う文通欄だから、直接相手を訪ねさせるわけにはいかないのだから。

  ノート一冊に文字がいっぱいになるまで、ぼくは書き続けた。

「あなたの根気に負けました。このまま家に帰ります」

  彼はそうノートに書いた。その文字を読んだとき、がっくりと疲れが全身をおそった。ぼくは彼の手をしっかりと握りしめた。彼が欲しいという『少年たち』を鞄に入れて持たせてあげた」

  その頃のわが家にはいろんな読者が訪ねてきた。耳の全く聞こえない人、目の見えない人、少年から老人までさまざまな人がやってきた。どんな人にも、みんな同じように話を聞いてはいたが…。

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コメント

この少年、元気なら今50歳ぐらいでしょうか?
うまく表現できませんが、聾唖者の少年の一途さ、切ない程愛しいです。 健常者の驕りと取られるかもしれませんが、聾唖者だからこそ健常者以上に真の愛を持ってるのではないでしょうか。 今求められてるのは、そういう一途さじゃないかとも思いますし、私も一途な人には顔かたちが好みじゃなくても、好きです。一生共に生きたいとも思います。 やはり驕りですね! 

投稿: 伸吾 | 2006年2月 9日 (木) 17時39分

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