親しくなったばかりなのに福島次郎さん逝く
熊本に住む作家の福島次郎さん(76歳)が2月22日、膵臓(すいぞう)がんで死去と朝日新聞の夕刊に載った。
福島次郎さんは、東洋大学国文科に在籍中、三島由紀夫さんの家に書生として泊まりこんでいたことがあった。福島さんはゲイだから、三島さんと関係ができたのだが、好みがまったく違うので長くは続かなかったようだ。
古里の熊本に帰り、教師生活をするかたわら文筆活動に入り、75年『阿武隈の霜』で九州文学賞受賞。96年『バスタオル』が115回芥川賞候補となり、受賞こそ逃したものの、石原慎太郎、宮本輝両選考委員の強い支持を得るという経歴の方だ。
平成10年11月に文藝春秋から『蝶のかたみ』が一冊の本になり、その後に発表された短篇7話と、長篇1話を収めた『淫月』が、宝島社から2005年9月に出版された。
福島さんがご病気だということをまったく知らなかったので、上京するようなことがあったら、インタビューしたいのでという手紙を送った。間もなくして『淫月』が寄贈されてきたので、2005年10月発行の『薔薇族』12月号に『淫月』の書評を書いて、雑誌と、ぼくの著書『薔薇ひらく日を』などをお送りした。
『蝶のかたみ』は、まだ読んでいないと言ったら、早速、サイン入りの本を送ってくれた。
二、三度、電話でお話しした。急速に心が通じ合って親近感をおぼえ、ずっと前から知っていたような気分だった。
昨年の11月9日には、こんな手紙を頂いた。
「拝啓 すっかり寒くなりました。先日から本当にいろいろとお世話になりました。ご本の中の小生の小説の宣伝、拝見。心から感謝しております。こちらこそ何もお礼が出来ず心苦しく思っております。それに著作の本やその他いろいろと送って頂きすみません。
じっくり味わっております。
『薔薇ひらく日を』の本など、逆に私のほうがはじめて見る内容のもので、驚き、且、感服しております。実にストレートにためになります。
また『薔薇族』の表紙絵など、次々とあり、なつかしき限りです。これからもまた、いろいろお世話になるかと思います。よろしくお願い申します。
小生、実は今、スイゾウの病気で二ヶ月入院のあと、通院の身にて、このお便りの文字が雑になっておりますこと、おわび申します。 敬具」
三島由紀夫のことを書いた著書の中に、三島さんの手紙を載せてしまったら、遺族から手紙にも著作権があると訴えられて話題になったことがあった。
福島次郎さんの手紙を無断で載せてしまったけれど、福島さん、あの世で「いいよ、いいよ」と言って、かえってよろこんでくれているのでは。
『薔薇族』の古い表紙を見て、なつかしいと書いてありますが、きっと以前から愛読してくれていたのかと思うと、福島さんとはやはり長いお付き合いだったのだ。ご冥福を祈るばかりです。
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