「スタジオ・アルス・ノーヴァ」の最初で最後の客
「スタジオ・アルス・ノーヴァ・さよならの会のお知らせ」が、作曲家の今井重幸さんから送られてきた。
「1955年(昭和30年)に戦後の雑然とした杉並に、新しい芸術文化の発信基地として発足し、活動して参りました。多くの意欲的な舞台芸術家が、このスタジオを基軸にして輩出されました。1957年のパントマイムの(ヨネヤマ・ママコ)、前衛舞踏の(土方巽)、モダンダンスの(三条万里子)、スペイン舞踊の(小松原庸子)、フラメンコの(小島章司)、バレエの(井上博文バレエ団)、演劇の(野沢那智)(有本欽隆)(劇団アルス・ノーヴァ)の他、若い多くの舞踏家たちが巣立ちました。」とある。「長い年月で建物が老朽化し、昨今は新築ビルによるスタジオが多くなってきて、採算がとれなくなり、半世紀の歴史に幕を引くことになりました。」
今井さんとぼくとの関係は、ぼくが駒沢大学の文芸部の部長時代、駒大に演劇活動が活発になり、学生が千人もいないのに、劇団が4つも5つも誕生して、文芸部でも実験演劇集団を結成した。そして合同で新劇祭を催すことになり、文芸部も参加することになった。
「生きてすみません」という創作劇をとりあげたのだが、そのとき文芸部員だった親友の江田和雄君(後に人間座を主宰して、演出家として活躍した)の脚本家のお兄さんと、今井さんが指導にきてくれ、そのときからのお付き合いだから50年を越える。ぼくもその芝居に出演して、新宿の富久町にある成女学園の女子高生とラブシーンを生まれて初めて演じたことがあったが、その女の子はませていて、リードされっぱなしだった。
今井重幸さん、大変、律儀な人で、パーティ好きのぼくが催すホテルでの会には必ず顔を出してくれた。昨年の8月23日に催した、京王プラザホテルでの「伊藤文学を励ます会」にも顔を出してくれた。左ひざの手術をする前で、手押車でぼくは出席した。そんな今井さんの会に出ないわけにいかないと、5月26日(土)・夕方6時からの「さよならの会」にかけつけた。
阿佐ヶ谷駅の南口の交番で、スタジオの場所を尋ねたら、「この突き当たりです」と、教えてくれた。早めに家を出たので、ぼくが一番乗りだった。料理やお酒を並べていた人が、どこかで見たことがある人だった。なんと弥彦村の「ロマンの泉美術館」で、「浅草の粋を見る会」を催したときに招いた、太鼓持ち(幇間ともいうが、宴会の席で芸などをして、客の遊びに興をそえる人のこと)の人だった。浅草に3人しか残っていない、貴重な七好さんという芸人だ。今井さんのスタジオを借りて、稽古をしていたのだという。二、三日前に弥彦温泉の「だいろく」という旅館に招かれて、帰ってきたばかりだそうだ。
50人ほどのお客さんだろうか。乾杯の音頭をぼくがとることになってしまったが、ぼくは最初で最後のお客ということだ。
亡くなった前妻の伊藤ミカが最初の新人公演の折、作曲を今井さんが担当してくれた。赤坂の日本短波放送のスタジオを借りて録音したのだが、今井さんが大きな太鼓などを使って、自ら演奏をして録音した。何度も何度もやり直しての録音で、徹夜になってしまった。明けがたに録音が終ったが、一時間いくらというスタジオ代がオーバーになると心配したが、気の毒だと思ったのか、係の人は超過分をまけてくれた。そんないい時代だったのだ。
今井さん、ぼくより年上だとずっと思っていたが、一つ年下だそうでびっくりしてしまった。髪の毛もふさふさしているし、ひげも立派だし、年をとらない不思議な人だ。スタジオがなくなってしまったら、若い人もこなくなるし、急に寂しくなるのではないだろうか。
はじめがあれば、終わりがあるというものの50年の歳月は、今井さんにとってスタジオの存在は、若さを保つ場所だったのでは……。
※写真上/古びた掲示板。もうポスターが貼られることはない。 写真下/パントマイムで一世を風靡したヨネヤマ・ママコさんと。彼女もこのスタジオから育っていった。
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