本の取次店「トーハン」の元社長、角屋正隆さんは、やさしい思いやりのある方だった。
日本で最大手の本の問屋(取次店)「トーハン」の社長、会長であった角屋正隆さんが、4月29日に93歳で亡くなられたことを新聞で知った。
昭和33年の11月に、同棲してから1年目、やっと女房が中学の教師となって、その給料をためての結婚式。
学生時代から父の仕事を手伝い、ぼくは昭和28年に卒業してからも、そのまま仕事を続けていた。
父は食べさせて、小遣いをやっていればいいと思っているのか、給料をくれなかった。
飯田橋の「東京大神宮」での、ワインとケーキだけのささやかな結婚式だったが、お世話になっている本の取次店の仕入課の人を招いたが、父とぼくだけの小さな出版社なのにみなさん出席してくれた。
当時「トーハン」の仕入課長だった、角屋さんの出席は本当にありがたいことで、それからの仕事に役に立ったことは間違いない。
その角屋さんに忘れられない思い出がある。
僕の前妻は33歳で事故死してしまったが、その息子は女房に似て頭がよく、桐蔭学園高校を卒業して、京大理学部に進学、今はソニーに勤めている。桐蔭学園は規則のやかましい学校で、夏休み明けに登校したら、髪の毛が長過ぎるというので学校に入れてもらえず帰されてしまった。
ちょうど、その日は月曜日で理髪店は休業日。そこで僕は思いついたことがあった。いつも通っているトーハンの地下に理髪店がある。そこで刈ってもらおうと、息子を車に乗せてトーハンにおもむいた。
ところが理髪店のご主人、ここは社員のためのものなので、外部の人の髪の毛を切ることはできませんと、ていよく断られてしまった。そこをなんとか事情を話して、ご主人に懇願したところ、しばらく考えていて、「それではあなたが最初にハサミを入れて下さい。失敗してしまったので、私が直すということにしますから」と言ってくれて、髪を刈ってくれたのだ。
翌日、無事に息子は登校することができたので、その頃社長さんになっていた角屋さんに、こんな親切な社員の方がいますと、お礼の手紙を出した。
後で理髪店のご主人は、角屋さんにおほめの言葉を頂いたそうだ。角屋さん、その話を「新文化」(出版界唯一の業界紙)の記者にしたようで、後に記事になって「新文化」に掲載された。
現在、トーハン地下の理髪店は閉められたままになっている。ここを訪れる社員と親父さんが将棋をさしている姿をよく見かけたものだ。僕も親しくなって、仕入れや店売所を訪れるときに寄って、お茶をごちそうになり、世間話に花を咲かせたものだ。
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