吉原掟(おきて)にしばられた女たち
―『娼妓解放哀話』から祖父の足跡をたどる②―
「江戸が日本の中心になって、だんだんに繁昌してきたので、以前、葭(よし)や葦(あし)の生い茂っていた吉原辺が江戸の中心になってしまった。そこで将軍、家綱のときになって、江戸市のまん中にかかる遊廊地が存在するのは風教上よくないというので、明暦2年10月9日に、本所、浅草二か所に移転候補地を指定して、その何れかに移転するように命令を下した。
この命令が下って、遊廊側がまだ相談中の明暦3年正月18日に、有名な振袖火事が本郷丸山の本妙寺から出、江戸市の大半を焼きつくしたので、吉原遊廊もその火事に追い立てられて、日本堤と浅草寺との間、千束村に接した所に、二町四面の地に建設したのが、今日存在する新吉原なのである。」
ぼくは残念ながら、吉原というところに足を踏み入れたことがないので、どんなところかまったく想像がつかない。
この新吉原で働く遊女たちのための「吉原掟(よしわらおきて)」というものがある。
1・遊女勤めの儀は、第一にいつわりをもっぱらとして、誠の心あるまじきこと。
2・美男、大通(遊びの道にくわしく通じていている人のこと)、心意義の面白き客たり
ともほれることは停止致し置候段、この儀はきっと相つつしみ申すべきこと。
3・醜男(ぶおとこ)、ひげ武者、老人、または、梅毒かきのお客なりとも、金たくさん
の方はほれる体(てい)に見せかけること。
4・朝夕の食事はひかえ目にして、客のものをたんと食べ候よう心がけること。
5・召抱えのみぎり、代金相渡せる上は、年明の日まで、主人より一銭の合力もこれな
きあいだ、さよう心得、せいぜい主人方へ金を過分に取り入れるよう心がけること。
6・衣類、夜具、頭のもの、その他の諸道具残らずこしらえ方致し候については、万事
客人にねだりかけ、朋輩にまけぬよう気をつけ借金出来候ことは毛頭考え出すまじ
きこと。
7・定め通りの仕着せは地合あしく、値段の安い品をあたえる故なるだけ、自分の力で
上等の衣類をこしらえ申すべく、仕着せは安物故使用致すを恥と心得、早速のけ候
こと、勝手たるべきこと。
この他数か條で、これがいつ頃書かれたものか、その時代は明確ではないが、この吉原掟の内容は、日本全国の遊廊を通じて、長く実行されていたものである。こんなに悲惨きわまるおきてのある遊廊へ売られる女は、水金という手付金をもらって、それで支度をしたものらしい。」
今の時代でも、ソープランドや水商売で働く女性たちに、このおきては通用するのではないだろうか。ぼくはキャバレーで働く女性しか知らないが、その身上話は本気にしたら大変なことになってしまう。
客のものをたんと食べろ。これもその通りで、店が終ってから寿司屋などへ誘ったら、高いものばかりを注文されてしまった苦い経験がある。
こんなひどいところで働かざるをえなかった女性たち。よく耐えていたものだ。哀れとしか言いようがない。
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