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2008年8月12日 (火)

胸に迫りくる『戦犯歌集・巣鴨』

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今年もまた8月15日の終戦記念日がやってくる。8月6日の広島への原爆投下、8月9日には長崎にも投下。その前には東京を始め、日本中の都市への無差別な空爆。どれほどの一般市民が亡くなったことか。

アメリカは原爆を投下しなかったなら、その後、多くの人が死んだかもしれないと、原爆投下を正当化している。

友人の白川充さんが2007年の8月、㈱展望社から出版した労作『昭和平成ニッポン性風俗史』(定価・本体2000円+税)の序文にこんなことを書いている。

白川さんは広島県高田郡市川村(現・安芸高田市)生まれ。原爆が投下されたときは、国民学校(小学校)四年生。広島市から三十キロはなれた山村の村だ。教師の父親、長姉は広島市に勤めていた。

長姉は原爆投下後、三日目の午後、奇跡的の生還をした。

「アメリカは原爆使用の大義名分を振りかざしたが、広島と長崎の市民を大量虐殺した事実は消せない。十歳の子供には、人間の不気味さや無常感を教えてしまった」のではないかと白川さんは怒る。

この辺から白川さんのアメリカ嫌いは始まったようだ。

「広島や長崎でまだ被災死体の処理に追われている頃、同じく焼野原の東京では政府関係者がアメリカ主体の占領軍兵士のため性慰安所を提供しようと画策していたのだ。これらが同じ国のなかで同時に進行したとは信じがたい。当時の日付を照合して、わたしは敗戦国のみじめさ、卑屈さを、いやというほど味わった。」

東條英機さんを始めとするA級戦犯の極東軍事裁判。これは日本を戦争に追いやってしまった指導者として罪に問われてもやむをえないかも知れない。しかし、ベトナムとの戦争では、アメリカは悲惨な目に遭ったのに、まさか戦争はしまいと思ったが、イラクと戦争を始めてしまった。戦争好きのアメリカの姿を見ていると、太平洋戦争も、日本だけが悪いのではないような気さえしてくる。

戦争に勝った国の兵隊が、どれだけ相手の国の人間を殺しても罪には問われないが、負けた国の兵隊は、自分の意志で相手を殺したのではなく、上官の命令で捕虜を殺したりしても戦犯として処刑されてしまう。

池袋のサンシャインの前は、巣鴨刑務所があり、戦後は巣鴨プリズンと呼ばれ、戦犯の人たちが収容されていた。

ぼくの父は戦後まもなくの昭和23年に第二書房を創立した。父の仕事でほめられていい出版物は、原爆歌集「広島」と戦犯歌集「巣鴨」、基地歌集「内灘」の三冊だ。

2昭和二十年代の後半に出版されたが、いずれも朝日新聞の社会面トップに紹介されて話題になった。その戦犯歌集「巣鴨」の元になった本だと思うが、昭和二十八年三月発行「歌集巣鴨十八人集」(非売品)発行者は平尾健一・大槻隆・松井正治の三人。印刷者は巣鴨文化会(印刷部)巣鴨プリズン内とある。

印刷は粗悪な紙に、なんとガリ版刷りの針金とじ、紙は変色し、針金はさびてくさっている。

第二書房から刊行した「巣鴨」(昭和二十八年九月発行・二百円)は、このガリ版刷りの本を元にしたものであることは間違いない。

最近、父の残した遺品の中から見付け出したが、赤ちゃけてボロボロの本だが、それに載っている短歌の数には、涙なくして読むことはできない。

それと戦後、アメリカ軍が進駐してくると日本の女性の多くが陵辱されてしまうという心配から、半官半民の売春会社「RAA」を設立した。それに応募した女性の手記「女の防波堤」も、くしくも第二書房から刊行されている。

その辺のくわしい話は、白川さんの「昭和平成ニッポン性風俗史」に書かれているが、戦争というものの馬鹿馬鹿しさが、情けないほどに描かれている。

なんとしても日本は戦争にまきこまれてはならない。この戦犯歌集「巣鴨」に登場する歌を戦争を知らない若者にもぜひ、読んでもらいたいものだ。

絞首刑の判決後、終身刑に減刑された、楢崎正彦さんの作品。

今生の別れ告げゆく君の手に最後の煙草の火はあかかりき

絞首刑から減刑、重労働二十年の森良雄さんの作品。

旅とほく最後の別れと連れられし子は野球帽かむり眠れぬ

乏しかる遺品の中につる折れし眼鏡は紙に包み添へけり

終身刑の毎田一郎さんの作品。

単純に別れを告ぐる妻とわれ再び会ふ日を言ふこともなし

冬至堅太郎さん、三十八歳、絞首刑がのちに二十五年に減刑。

わが斬りし米兵の妻子想ひをり背冷えびえと壁にもたれて

着換えつつシャツ柔かに匂へれば一目を妻に会ひたくなりぬ

古里に残した母を想い、妻を想い、幼い子らを想う心情は胸に迫るものがある。どの人たちも三十代の若い兵士たちだ。

一枚のはがきで戦場に連れて行かれ、自分の意志で殺したわけでもないのに、戦犯の汚名を着せられた人たち。どのくらいの数の人が処刑されたのだろうか。

巡りくる終戦記念日を迎えるにあたり、無名の戦犯たちの残した作品をすべての日本人が、もう一度じっくりと読むべきではなかろうか。

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