『薔薇族』の人びと・その3〜棟に真っ赤な薔薇の刺青がー三島剛さんのこと
『薔薇族』創刊の頃(昭和46年・1971年)、知り合ったゲイの人たち。藤田竜さん、間宮浩さん、そして、川居孝雄さんの3人だ。
いずれも傑出した才能の持ち主で、川居さんは、非合法の会員制の雑誌「アドニス」の別冊で出されている「APOLLO」(1960年発行)に、「終わりなき季節/川居孝雄」、「愛の処刑/榊山保」、「青蛾の嘆き/碧川潭」の3篇が載っている。
「愛の処刑」は、三島由紀夫さんの作品、「青蛾の嘆き」は、恐らく作家の中井英夫さんの作品であろう。
川居さん、中井さんは三島由紀夫さんとの交流が、その頃からあったに違いない。川居孝雄さんは、『薔薇族』に小説を何篇も載せてくれ、単行本も何冊か出させてくれた。
川居さんは、国営放送の職員で、退職されてからの話しだが、出世できなかったのは『薔薇族』のせいだと嫌みを言われてしまったが、僕は川居さんの本名も、住所も、今もって知らない。
藤田、間宮、川居の3人は、皆、親分肌の人、うまくいくわけがない。まず川居さんがはじき出されてしまった。そのおかげで念願の三島剛さんに会うことができたのだ。
創刊の頃、挿絵を描いてもらう男絵師がどうしても欲しかった。三島剛さんにどうしても会いたかったが、藤田、間宮のご両人、三島剛さんと親しいのだから、僕に紹介することなど、何でもないのに紹介してくれなかった。
ヤクザみたいな怖い人だとか、奇人とも言われ、名人気質の人だとも言われ、気に入らない人には、絶対に会わない人だと、ふたりに言われていた。
それがはじき出された川居孝雄さんが、ふたりへの腹いせなのか、突然、三島剛さんを紹介すると言うのだ。
不安な気持ちだったが、土砂降りの雨の中を、僕がクルマを運転して、川居さんを乗せ、目黒不動尊のそばに住んでいる三島剛さんを訪ねた。好物だという日本酒の一升瓶を下げて。
「伊藤さん、あなたはいつか必ずここに来ると思っていましたよ」と言ってくれた。確かにヤクザの親分のような眼光鋭い人だったが、やさしい目をした人だった。それから急に親しみを増してきた。
きちっと整理された引き出しの中から、描きためた絵を一枚、一枚、大事そうに取り出して見せてくれた。
今までは、「アドニス」とか、「風俗奇譚」など、悪い紙に印刷されたものしか見ていなかったので、色彩豊かな男の絵は、浮世絵を見ているような思いだった。こんなに美しい線と色彩で描かれているとは夢にも思わなかった。
おそらく細い筆で一気に描くのであろう力のこもった線は、見事としか言いようがない。長い年月、男絵一筋で精進してきたものが、見事に描かれていて、体が震えるような思いだった。
三島剛さんは、京人形の顔を描く仕事もされていて、あの美しい顔を描き上げる技術は、それから修得されていたのだろう。
何よりも驚いたのは、男の部屋だというのに、台所の食器棚から部屋の中の調度品まで、見事に整頓されていて、ゴミひとつ落ちていない。
僕は、初対面だというのに、画集にして出版したいという話しを切り出したら、なんと「伊藤さんにお任せしますよ」と、即座に快諾してくれた。
翌年に24葉の絵を納めた「三島剛画集」を高橋睦郎さんの序文で出すことができた。
その後、「さぶ」に仕事の場を移されてしまったが、三島剛さんがもっとも円熟した時代に出会えたことを幸せに思っている。
胸に真っ赤な薔薇の刺青を彫っていた三島剛さんを忘れることはできない。
★『薔薇族』の注文の方法は、郵便局で千円の定額小為替を作ってもらってお送りください。〒155-0032 東京都世田谷区代沢2-28-4-206 伊藤文学
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