『薔薇族』の人びと・その7〜波賀九郎さんとオカマちゃんのその後
波賀九郎さんとオカマちゃんの人情話は、いよいよクライマックスに。ひとりだけ日本に残されてしまう、フィリピンの中学2年生の少女の悲しげな顔と、オカマちゃんの小学生の娘のことが頭から、どうしても離れない。
何日か過ぎて、6畳一間の生活にもなれてくると、不思議な家族のような関係が生まれてくるようだ。波賀さんが父親で、おしげさんが女房、そして娘と。
ある日のこと、小学校で父親参観日があって、おしげさんは朝帰りして、昼間寝ていて、とっても学校に行けないから、娘のために行ってくれと頼まれた。
父親の代わりになって教室に入った波賀さん、どんな顔をして子どもたちの授業を見ていたのだろうか。
相手が男の子だったら、波賀さんの可愛がり方も違ったのだろうが、僕の想像では、あまり女の子に愛情を持たなかったのでは。だから女の子も波賀さんになつかなかったのかもしれない。
波賀さんが、ぼそっと語ったところによると、女の子は暗いと言っていたけど、その少女が、その後、どんな人生を歩んだのか、なぜか、僕には気になるところだ。
おしげさんは、家にいる時も女装をして暮らしているが、首から下は逞しい男の体で、なんともアンバランス。おしげさん、女の子を連れて、昼間の早い時間に銭湯に行く。もちろん男風呂に入るのだが、地元の人たちは全く気にしていない。その近辺がオカマちゃんを気にしない町だからだろう。
アパートの隣の部屋には、岡山から出てきた資産家の息子が住んでいる。女装が好きでオカマになったそうだが、その時代、息苦しくて家に住んでいられなかったのだろう。
もうひとりのアパートの住人のオカマちゃんは、ヒロポン中毒者だった。その頃、ヒロポンを買うのにお金がかかったのだろう。持ち物を何から何まで質に入れて、部屋の中はがらんどう。
泉鏡花の新派の名作「婦系図」の名セリフをうわごとのように叫んでいるのが、よく部屋の外までもれてきたそうだ。
それが2、3日、全く聞こえなくなってきたので、住人が変だと思って部屋に入ってみたら、何にもない部屋に残されたカヤにくるまって、素っ裸で押し入れの中で死んでいた。
アパートの住人と近所の人たちが、お金を出し合って棺桶を買い、焼き場に運んで、皆でお葬式を済ませたそうだ。
波賀さんの弟さんと妹さんとも連絡が取れて、やっと援助の手が差し伸べられて、3ヶ月後には、オカマちゃんの部屋から、やっと別れることになった。
しばらくたってから、波賀さんはおしげさんのアパートを訪ねたら、もうそこにはいなかった。
オカマちゃんと、小学校3年生の女の子はどうなってしまったのか。人情味あふれる大阪の夏物語。今の世にも大阪の人情話は続いているのだろうか。
波賀九郎さん、力道山のプロレスの写真を撮っていたこともあったそうだ。もっと、もっと話を聞いておきたかった。
被写体に肉迫して、シャッターをきっているときの波賀さんの眼光の鋭さは、今でも僕の目に焼き付いている。
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