運命の出会いだったかも
新潟で後ろめたいことをしている人たちに恐れられている雑誌に、「財界にいがた」がある。
ある有名な新潟の神社の宮司さんが、若い巫女さんに手を出したのを告発されて、宮司の職を辞さざるを得なくなってしまったこともあった。
女房の古里の弥彦村に「ロマンの泉美術館」をオープンさせたときに取材してくれてからのお付き合いで、「日本の同性愛の現状」というタイトルで、エッセイを連載させてもらったことがあった。
先日、夏休みの孫を連れて、しばらくぶりに弥彦を訪れたおりに、片付けものをしていたら、平成8年の4月号が出てきた。「運命の出会いだったかも」というタイトルで⑬とある。ちょっと面白いことが書いてあったので紹介してみよう。
「月に一度ぐらいしか、東京から弥彦村の美術館に行けないが、館長室にお客さんを招き入れて、話をするのを楽しみにしている。
そんな時、僕の本業が出版の仕事だというと、「美術書を出しているのですか?」と聞かれてしまうが、正直に「25年前に日本で初めて『薔薇族』という同性愛の雑誌を出したんですよ」と答える。
『薔薇族』という雑誌を知らない人もたまにはいるが、ほとんどの人が知っているので知名度に驚いてしまう。
『薔薇族』が250号を出したおりに、『薔薇を散らせはしまい』(批評社刊・絶版)を出版した。その本を美術館の売店に置いて売ったことがあった。それが不思議なほどよく売れて、それも女性の人が買ってくれた。
奥さんが先に扉を開けて外に出たあとに、さっと買って行かれた年配の男性を見かけたこともある。
先日、涙が出るほどうれしい電話が、17歳の女の子からかかってきた。
お母さんと美術館を訪れたときに、エッセイか、詩の本かと思って、お母さんが何気なく買ってしまった。岩室温泉のホテルに着いてから、買ってきた本を部屋で開いて見た。
運命の出会いともなった本。「あれ、お母さん、ひょっとしたら『薔薇族』の本じゃないの?」
そういうと、お母さんが「何、その薔薇って?」
「ほら、あの有名なホモ雑誌の」
「えっ!そんな本、まさか美術館に置いてあるわけないじゃないの」
母子の間で、そんな会話があったそうだ。この女の子、小学校3年生から4年生にかけて、授業に出ると、頭痛や腹痛を起こすようになってしまった。
高校も途中で退学してしまい、今は通信教育の高校に通っている。いろんなことがあったようだが、この女の子、レズビアンだったのだ。
他人とちょっと違う自分、そんなジレンマが、成長するにつれて屈折していったのだろう。学校にも行けなくなってしまった。その原因はレズビアンであることを自分の中で認めたくないという気持ちからだ。
早くから自分の中で、レズビアンであることを自覚していたら、気持ちもすっきりしていただろうに。僕の本を読んで、気持ちが晴れ晴れしたそうだ。
「僕がついているから、もう心配しないで。いつでも電話をして」
そういうと、彼女もうれしそうだった。偶然のようだけど、僕の本を美術館に置いてよかった。
同性愛って、異常でも、変態でもないのだから、胸を張って堂々と生きてほしい。罪悪感なんて持つことなんてまったくないのだから。」
「財界にいがた」には、不釣り合いなエッセイだけど。この女の子、今頃どうしているだろうか。
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