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2009年12月22日 (火)

全裸でくさりをまきつけて。

 僕の先妻の女房、ミカが風呂桶の中で、酸欠死したのは1970年(昭和45年)の1月11日のことだった。享年33歳という若さでだ。

 1967年(昭和42年)10月30日、31日、「オー嬢の物語」の初演、そして12月26日に再演。

 翌年の1968年(昭和43年)12月16日から3日間、新宿厚生年金会館小ホールでの「愛奴」の公演と大きな舞台を作り上げた。

 そして翌年の1969年(昭和44年)、亡くなる前の年がミカが次々と新しいことに挑戦して一番輝いていた年だ。

 日本で初ということで世間をあっと驚かせたのが、1969年(昭和44年)の5月10日から30日まで上野の東京都美術館で開催された、毎日新聞社主催の「第9回現代日本美術展」でのことだ。

 五月女幸雄さん(31歳の無名の新人)の作品「商品1969・5A・B」だ。一昨年の秋、ミカの舞台を観て感動した五月女さんが手紙を出した。それがきっかけで、ふたりは知り合った芸術活動の同志。「私は肉体に対する嫌悪感がとても強い。踊りは肉体を超えるためにある。五月女さんが〈商品〉として展示と言った時、ぴったりの役だと思って引き受けた。」

 五月女さんはミカの他に、10人ほどの女性に出演を頼み承諾を得ていた。ケースはふたつ。ひとりがケースに入っている時間は3時間。その間は水も飲めず、トイレにも行けない。おまけにライトの熱で蒸れる。空気の流通は4センチほどの扉の隙間だけ。

 ミカは「愛奴」に出演したときの薄地のレースに鳥の羽根をつけた幻想的な衣装でケースの中に入っていた。

 五月女さんとミカが裸の展示を考えたのは、展覧会も半ばを過ぎてから。なにしろ美術館にナマの人体が展示されたのは前代未聞のこと。それだけでも、いろいろ問題があったのに、裸となったら除去命令がおりかねない。そうなったら「美術界への肉体を通しての反抗、美術の概念を突き破る」という五月女さんの意図も水の泡。そこで最終日に決行しようと腹を決めていた。

 最終日、ミカは全裸にくさりをまきつけただけで、ケースの中に入った。中に入っていて一瞬ライトをつけ、そして消す。大勢の観客がケースの周りを取り囲み、同じ部屋に展示された作品には誰も見向きもしない。

 照り映える光を浴びて、ミカの肌とくさりが輝く。最前列にいた中年の男性が一心にバタフライの部分を覗き込む。それでも物足りなくなったのか、乗り出すように顔を近づけた。とたんにライトが消える。テレたように顔を引っ込める男の周りで失笑が起こる。

 このときの写真は「芸術生活」(1969年7月号)に載っているが、文章で書くよりは、1枚の写真の方がすべてを物語っている。

 3時間にわたるハプニングを終えて、白衣をまとって控え室へ引き上げるミカの後ろをぞろぞろと観客が追った。控え室で着替え中のミカを覗こうとする、興奮冷めやらぬ男性たちもいた。

 画期的な作品は、人々のドギモを抜いたようだ。

 これは40年も前の話だが、なんと五月女さんは、71歳になっていて24年間もパリで奥さんと一緒に滞在しているという。フィレンツェに住んでピアニストとして活動している娘さんが偶然に僕のブログを見て両親に知らせたそうだ。

 五月女さんはネットをいじらない。奥さんが僕にメールをくれて「なつかしくて感動しています」と。メールで返事を送ったので、間もなく電話がかかってくるだろう。

★『裸の女房』(彩流社刊・定価2100円)に詳しく載っています。アマゾンに申し込むか、書店で取り寄せてもらって、ぜひ、お読みください。

Photo


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