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2010年1月 1日 (金)

188年、働き続けなければ、借金が返せない!

 僕は数学の才能はまったくないけれど、祖父は数字に強かったようだ。遊郭の樓主に雇われた暴徒らに重傷を負わされた1ヶ月後に、『娼妓解放裏話』の著者、沖野岩三郎さんが、救世軍の本営に伊藤君(僕の祖父)を訪問すると、頭部へななめに包帯をまいた伊藤君は、しきりにそろばんをぱちぱちいわせていた。

 樓主に買われた女性たちが、どんなに毎日男にもてあそばれて働き続けても、借金は減らずに増えてばかりだという計算をして、女たちを自由廃業させて救い出すことが大事だということを数字で示したかったのだ。

 「実に驚いた話です。今まで僕のところへ廃業したいからといって救いを求めて来た娼妓の中の158人に、樓主との貸借関係がどうなっているかと聞いた問いに対して、正確に自分の借金がどのくらいあるかを答えられた女は、わずか70人だけでした。
 この70人を廃業させたときに、くわしくその貸借関係を調べてみると、一人分の前借金は、平均337円74銭(今どきの人には、現在ならいくらくらいなのかわからないと思うが)、総計で金2万3千6百41円80銭になっていました。
 70人の娼妓が悲しい稼業をさせられた、歳月は合計で1百86年10ヶ月の間、肉をひさいで、やっと3百28円55銭しか、前借金を償却できていない勘定になっています。つまり彼女らは平均2年8ヶ月ずつ、淫売をさせられて、1人前、たった4円69銭3厘の借金払いしかできなかったのです。
 さんざん淫乱男のオモチャにされて、死ぬほどの苦しい思いをしながら、1カ年にわずか1円75銭9厘、1ヶ月に割り当てると、たった14銭6厘6毛、1日平均4厘9毛弱ずつしか借金が返せないという仕組みになっているのです。
 娼妓に自由廃業を救世軍がすすめることを悪事でも犯すかのように思う人たちは、この計算をひととおり見るがいい。今、この70人が自由廃業をしないで、正直に樓主の言いなり放題になって、稼いで前借金のなくなる日を待つとしたらどうでしょう。
 1日平均4厘9毛では、実に188年10ヶ月と6日の長い年月を稼げなければならない計算になるのです。
 いかに病気をしない女性であっても、娼妓を188年10ヶ月も勤められるはずがありません。どうしたって1日も早く、公娼全廃まで、こぎつけなければならないが、まず今日のところでは、娼妓自身に「自分たちはお金で買われたからだではない」という自覚だけでも与えてやりたいのです。
 伊藤君は、もう洲崎に起こった、恐ろしい迫害も、暴行も、とんと忘れてしまったように、熱心に自由廃業のことを考えているらしい。」

 いくら働いても借金が返せない仕組みになっていた女性たち。みんな貧しい家の娘たちで、教育を十分に受けられなかったから、樓主の言うままに働き続けたのだろう。
 
 祖父たちの働きもむなしく、公娼制度は昭和32年の売春防止法の成立まで続いたのだから、なんとも情けない話ではある。

 売春防止法は、男と女との話で、男と男の売春は禁止されていないというのも妙な話だ。

 桜の花が咲く頃になると、「おいらん道中」などを観光の目玉にしているのんきな町があるが、こんな悲惨な話が長い間続いていたことを知ってからにしてもらいたいものだ。

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