1週間働いて時計を買ったときの喜び!
永福町にあった「朝顔園」は大学時代の4年間の夏休みになると、アルバイトに通った忘れられない場所だ。
僕は、この朝顔園で練習して自転車に乗れるようになった。それまで自転車に乗れなかったのだ。
小学生の頃、母が古道具屋から自転車を買ってきてくれたが、ちょっと僕の身体には大き過ぎて、何度も乗ろうと思って練習をしたが、臆病なせいもあって乗れなかった。
かわいそうに折角、母が見つけて買い求めてきた自転車も物置の中で錆び付いてしまった。
朝顔園の中に直線の通りがあって、そこで僕の妹の友人の園子ちゃんが自転車乗りの練習を始めて乗れるようになってしまった。
それを見て、中学生の園子ちゃんに負けるものかと僕も練習を始めてやっと乗れるようになったのだ。
あの時、自転車乗りの練習をして乗れるようになったから、自動車の免許も取れた。自動車を運転できなかったら、『薔薇族』を出し続けることはできなかったろう。
営業マンなんていない小さな印刷屋で、活字を組んで雑誌を作っていたのだから、ゲラが出ると車で取りに行き、校正が終わると明け方に印刷所に届けていた。
大輪朝顔作りの名人の尾崎哲之助さん、無地の朝顔の葉っぱに白い斑点を入れるように改良したのも尾崎さんだ。
品種の改良に力を入れていて、朝、一番電車に乗って朝顔園に行き、雄しべの花粉を筆で取って、他の雌しべに掛け合わせる仕事もしていた。
仕事が終わると家に帰って一眠りして、また午後になると出かけ、朝顔の鉢に水をやる仕事をしたものだ。それで日給が125円だったと覚えている。それを1週間分ためて安物のセイコー社製の時計を買うことができた。
尾崎さんは、大きな植木鉢の中央に細い竹の支柱を立てて、その回りをらせん状に太い針金を付けて、そこに朝顔のつるを巻き付けさせるらせん作りも考案している。
それが見事な花を咲かせる頃になると、昭和天皇に10鉢ほど献上していた。天皇陛下もお喜びだったのか、皇太子殿下(現在の天皇陛下)が学習院の高等科に通っていた頃、朝顔園に献上のお礼もあってか見学に来られたことがあった。
僕も片思いだった阿部弥寿子さん(駒沢女子学園の高校生)を皇太子殿下が来園になるというので呼んだという。
今なら警察の警備が大変だろうが、大げさな警備なんてしていなかった。尾崎さんも半袖のいつもの通りのシャツでお出迎えしたし、もちろん、僕らも半袖のシャツでだ。
尾崎さんが説明をしている写真を持っているが、報道の人などいないし気軽に写真を撮らせてくれた。
僕は忘れているけど、高校生のアルバイトの小林君の話だと、皇太子殿下にコカコーラを出したということだ。その頃はコカコーラは最高の飲み物だったのかも。
尾崎さんは節約家で何でも捨てない人で、ひもを結んだ時に余計に長くして切ったりすると叱られたものだ。これは出版の仕事をするようになっても、今でも無駄にしないように尾崎さんの教えを守っている。
何結びというのかわからないが、植木屋さんがひもを縛る方法も教えてもらい、本を荷造りして発送するときに役立っている。
人に使われたのは、このときだけだったけれど、尾崎さんには感謝するばかりだ。
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