マスターベーションのお相手も仕事のうち!
「事実は小説よりも……」と言うけれど、『薔薇族』の読者から、家にいるといろんな電話がかかってきたものだ。
ぼくが48歳のときとあるから、創刊して10年ぐらい経ったときのことだろうか。その日は風邪をこじらせて家にいたら、かかってきた電話。
中学3年生からの電話だ。この中学生、ぼくが経営していた、談話室「祭」によく行くそうだ。そこで知り合った48歳のおじさんと親しくなった(今ならこんなことしたら大変だ)
ある日曜日のこと、おじさんの運転する車に乗って、ドライブにでかけた。房総方面は春を感じさせるのどかな日だった。
街道ぞいにあるしゃれたドライブインに車をとめたら、ドライブインはかなり混んでいて、楽しそうなアベックや、にぎやかな家族連れで大にぎわいだった。
理想のおじさんと二人っきりなので、中3生すっかり甘えて、寄りそうようにしなだれかかって、たわいない話に夢中だった。
ところがなんとなく自分の方を見ている視線に気づいて、そっちを見たらびっくり。親父がこっちを見ていたのだ。そのそばには22、3歳のかわいい女の子が一緒。
なんという偶然! こんなことってあるものだろうか。あそこにしようか、ここにしようかと思いあぐんで車をとめたドライブイン。そこで親父に出会うとは……。
もちろん、ぼくらは日帰りだったが、親父は泊まりだった。それからの親父のぼくを見る目がへんで、まったく口をきかなくなってしまった。
それで心配になって、ぼくに相談の電話をかけてきたわけだが、どうも親父が勘づいたのではないかという心配だ。
ノンケの親父さんだったら、息子が中年のおじさんと一緒だからといって、まず変な関係だとは絶対に思わないよと答えた。
親父さんの方が不倫の関係(?)を息子に見られて、そのショックで声をかけられないのでは……。ましておふくろさんにでも、そのことをしゃべりやしないかと心配してのことだろう。
だから何かのおりに「あのことは絶対におふくろには言わないよ」と、ひとこと言っておけば親父さんも安心する。そして自分のことは、学校の先輩に誘われてドライブしたと言っておけば、それ以上は疑わないよ。
編集長って大変な仕事だった。どんな電話でもガチャッと受話器を置いたりはしない。一番大変だったのは、マスターベーションのお相手の電話だ。はあ、はあとよがり声をあげているのを果てるまで聞いていてやらなければならないのだから。
そのうち早くいかせるコツもおぼえて、「君の大きいのかい」とか、こっちも参加してやったり、ぼくまでやりたくなったりして。
もうひとりの高校2年生からの電話もショックだった。この高校生、自分の本当の親父さんが好きだというのだ。親父さんも男好きだったみたい。
おしゃれでみだしなみがよくて、きれい好きだというから、親子そろってそうかも知れない。
その高校生、親父さんが風呂に入ると、息子は必ずトイレに入る。風呂場とトイレがくっついているので、トイレに入ると風呂場が丸見えなのだそうだ。
トイレに入ってなかなか息子が出てこないものだから、母親が疑いはじめて「なんでお父さんがお風呂に入ると、お前はトイレに入るの?」って言われたとか。
こんな話を聞かされての35年。あっという間に過ぎました。
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コメント
<どんな電話でもガチャッと置いたりしない
そうなのですか・・。伊藤さんの存在でどれだけの人が救われたのだろうと思いました。貴重はお話の数々ありがとうございます。
またのエントリーを楽しみにしています。
投稿: | 2012年2月11日 (土) 00時02分