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2012年3月 5日 (月)

ぼくの宝物、篠山紀信写真集『パリ』

 上野の駅のまん前に、文省堂書店があった。間口が狭く、うなぎの寝床のような店だった。店長はぶっきら坊で、感じの悪い男だったが、直接本を届けるようになって、しばらくしたら、本当は気持ちのやさしい人だということが分かってきた。
 木造二階建てで、二階が倉庫になっている。道路に面している店だから、二階の窓ガラスにポスターを何枚も貼ってくれると、すごく目立ったものだ。
 タテ長の黄色い紙に、墨色で大きく『薔薇族』と印刷してあり、その下に製本所で余分に刷ってある表紙をのりで貼ってもらっている。そのポスターをポルノ・ショップの店先に貼ってもらうのだ。この方法は安上がりで効果的なので、他誌にすぐマネされてしまったが。
 なにしろ車の多い道路だから、文省堂書店のお店の前に横付けするのは至難のわざだった。最初の頃は、ぼくひとりでくばっていたが、だんだん雑誌が厚くなってきたので、20冊がひと束になっているのを二束ずつ運ぶのがつらくなってきて、助手を連れてくばるようになっていた。

 その頃の文省堂書店は、エロ本を多く並べていたので、お客がいっぱい。その中を「ごめんなさい、ごめんなさい」と、お客さんをかき分けながら奥のレジの所へ運びこむ。
 そのうちの何本かをレジの所へ置くと、2、3人いる店員が集まってきて、いっせいにカバアをかけはじめ、出来上がるとレジの上に積みあげる。一番上のものはカバアをかけないでおく。
 お客さんが指をさせば、すぐに渡してくれる。ぼくらが運びこむのを立ち読みして、待っていてくれたのか、目の前で積みあげた『薔薇族』の山が、みるみるへっていく。
 残った雑誌は2階へ、狭い階段を持ちあげて、何百冊もの雑誌を積みあげれば終わりだ。2階が店員の着がえ所と、倉庫になっている。トイレに木の扉があって、そこで用を足したものだが、その扉に新潮社刊の篠山紀信さんの写真集『パリ』の古びたポスターが貼ってあった。

47b  そのポスターの写真は、巴里の裏町の古びた骨董店のショウ・ウィンドウの写真で、その中には、アンティークのお人形、ランプなどが並べられている。
 その頃、ぼくは西洋アンティークにめざめ始めた頃なので、ショウ・ウィンドウの中のものに目をうばわれていた。
 『パリ』は1977年、新潮社刊で¥10000もする写真集だ。トイレの扉に貼られたポスターは店長にお願いしてゆずり受けていた。
 篠山紀信さんは、1940年生まれとあるから、事故で亡くなった舞踏家、伊藤ミカの写真を撮りに稽古場にきてくれたのは20代の頃だろう。美しい背の高い有名なモデルさんを連れて。そのときの写真は、美術雑誌の『芸術生活』(1968年6月号)に載せられた。
 ぼくが彩流社から『裸の女房』を出版するときに、写真の掲載を篠山さんにお願いしたら、快く許しくれた。

 人との出会いも不思議だが、「物」との出会いも不思議なものだ。ずっと欲しかった写真集『パリ』をなんと近所のリサイクル・ショップの棚で見付けたのだ。
 今も活躍されている、和楽のお師匠さんに篠山さんがサインをして、贈られたものだが、お師匠さん、パリの古い街並みの写真集などまったく興味がなかったのか、古書店でなくリサイクル・ショップで処分してしまったのだろう。まったく新品のような本を。
 パリなどには一度も行ってないが、写真集を開けば、古いパリの街並み、そこで生活している人たちの息づかいまで聞こえてくるようだ。

47a

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第5回「伊藤文学と語る会」 
 
3月10日(土)午後2時~4時(予定) ※途中参加・中途退出も自由です。
会費なし(コーヒー代の実費のみ)
会場:下北沢 カフエ「邪宗門」
住所:東京都世田谷区代田1丁目31-1 TEL03-3410-7858
※テーマなしで自由に語り合います。ぜひ、お出かけを!

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