« 第9回「伊藤文学と語る会」 | トップページ | 母校、世田谷学園は進学校として発展している! »

2012年6月25日 (月)

閉じたままの扉の中は

 10年前のことだから、ぼくが70歳のときのことだ。なんで詩のようなものを書いたのかまったく忘れてしまっている。
 ぼくはなにか、ことあるときにだけ、アドリブで詩のようなものを書いてきた。新潟県の弥彦村に「弥彦の丘美術館」を造るべく準備しているときに、設計図が完成したのを病室で見ただけで、尽力してくれた本間村長さん、完成を見ることなく、ガンで亡くなってしまった。
 文化会館で告別式が開かれたとき、ぼくは壇上で「もうすぐ弥彦村に巴里がやってくるのに」という詩を読みあげた。巴里の画家、ルイ・イカールのぼくのコレクションを展示する美術館だった。読んでいるうちにすすり泣きの声が聞こえてきたのを覚えている。
 心臓病で亡くなった妹が、フジテレビの「テレビ結婚式」をあげたとき、ぼくは妹に捧げる詩を朗読した。
 10年前の詩は、ぼくが生まれ育った下北沢のことを書いたものだ。戦前の下北沢と、現在の下北沢、めまぐるしい変わりようだ。
 下北沢は、戦前は北口の一番街といわれる通りがにぎやかで、南口はほとんど住宅だった。スーパーの「オオゼキ」の前の踏切は小田急線がひっきりなしに走っているから、開かずの踏切だ。
 いつ頃から通れなくしてしまったのか、忘れてしまったが、南口からスーパーの「ピーコック」の方へぬける地下の通路があったのを知っている人は少ないだろう。この通路、大雨が降ると、すぐに水浸しになって、通れなくなってしまったが。

 

閉じたままの扉

 下北沢の南口。3、4軒しか店がなかったころ、いつも扉を閉じたままの「ロリガン」というバアがあった。
 大人しか入れない店だということは、子供心にも分かってはいたが、その中にどんな世界があるのかと、なぞめいた扉の中を想像していた。
 昔の子供は夜は外に出ないから、見ているのは、昼間の閉じたままの扉。
 大人になったら入ってみたい。神秘な扉を開いてみたい。いつも、いつも思い続けて眺めていただけの扉。
 それがいつの間にか、大人になってしまったが、その時には、もう「ロリガン」は消えていた。
 あの扉の向こうにどんな世界があったのだろう。記憶の底に、閉じたままの扉だけが、今も頭の片隅に残っている。 

 

女の匂いに

「茶沢通り」。じゃりだらけの道に、そんなしゃれた名前はついていない。その道に面して小さな理髪店があった。
 中学生の頃だったろうか。その理髪店には目のぱちっとした、小太りの若い女主人がひとりで髪を刈っていた。
 その日は、ぼくしかお客はいない。椅子に座って髪を刈ってもらっていたが、すぐそばにいる女の匂いに、ぼくのからだの底から、突きあげてくるものがあって、息が荒くなってきた。
 抱きついてしまいたいとさえ思った。白い布がかけられていなかったら、どうなっていただろう。女主人の瞳もうるんでいたような。
 早く終わってほしい、と思う反面、いつまでもこのままでいたいとも。
 それからというもの、女性だけの理髪店には足を踏み入れたことはない。

 小田急沿線で、下北沢駅だけが汚いまま。今、工事中で、これからどんな風になるのか。ごちゃごちゃした街を残したいものだ。

080

姉と3歳ぐらいのぼく。桜の木も細かった。

 

第9回「伊藤文学と語る会」

///////////////////////////////////////////////////////////////

7月14日(土)午後2時~4時(予定) ※途中参加・中途退出自由。
会費なし(コーヒー代の実費のみ)
会場:下北沢 カフエ「邪宗門」
住所:東京都世田谷区代田1丁目31-1 TEL03-3410-7858

///////////////////////////////////////////////////////////////

初めての方、女性の方、お一人様でも大歓迎!
お気軽なご参加を、お待ちしております。

|

« 第9回「伊藤文学と語る会」 | トップページ | 母校、世田谷学園は進学校として発展している! »

コメント

弥彦の丘美術館が、完成した頃は、確か昭和の終わり頃でしたでしょうか。
あの頃の弥彦は、新幹線、高速道路の開通と時代もバブルと活気のある時代でした。懐かしいです。
本間道夫村長亡き後、安達、大谷村長へと代わり、時代も移り変わりました。
当時、伊藤さんが、麓に建てた、素敵な洋館やイカールの繊細な絵画の数々、在りし日の本間村長のお姿と共に懐かしく思いだされます。

投稿: 弥彦 | 2012年7月 1日 (日) 12時26分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/101967/54986706

この記事へのトラックバック一覧です: 閉じたままの扉の中は:

« 第9回「伊藤文学と語る会」 | トップページ | 母校、世田谷学園は進学校として発展している! »