医学部の学生が「祭」に来てると書いただけで!
『薔薇族』の巻末に「編集室から」という頁が2頁もあって、小さな文字で5段もつめこんで、こまごまと書いている。
1981年8月号(NO.103)31年も前のことで、その頃の読者の意識が分かるというものだ。
ぼくが経営していた、新宿の「伊藤文学の談話室・祭」を訪れるお客さんの話だ。
「7月号のこの欄に、某大の医学部の学生さんが「祭」に来ているという話と、同性愛の研究をやりたいと語っているという話を書きました。そして、若い力がだんだんに世の中を変えていくという話を。
ところがそれを読んだ当の学生くん、ショックを受けて、かなり落ち込んでしまったというのです。
誰が来てるかなんて探す人もいないし、へえ、そうかなぐらいに思うかもしれないけど、まったく情けない話です。
某大の医学部に入るぐらいの優秀な学生くんが、こんなことでは前途ほど遠しという感じです。
この世界の人は、なにか気になることがあると、だんだん、悪く、悪く考えこんでしまう、被害妄想的なところをもっている人が多いので、仕方がないのですが、まったく困ったものです。
よく地方の人から電話がかかってきて話をするのですが、どこに住んでいるということすら言わない人が、よくいるのです。
秋田とか、青森とかいったって、その人を探し出せるわけがないのに、用心深いというか、人を信用しないというか、もう少しおおらかになってほしいものです。
それでいて好みの人に出会ったりすると、百年の知己のようにふるまって、すぐ仲良くなって、自分の下宿に連れてきて、信用してお金を貸してしまう。
相棒の藤田竜君がいい例だ。お金にはきびしい人が、サギ師が好みの男だったのか、まんまとだまされて、7億ものお金をだましとられてしまったのだから……。
やはり「祭」で出会った地方の公務員の年配の人の話だ。
「ぼくのそばには、表紙絵を描いている木村べん君がいたのですが、その紳士、かばんの中から『薔薇族』を取り出して見せてくれました。地方の本屋さんのカバアがちゃんとかかっているのです。
人口、10万人そこそこの町に住んでいるそうですが、その町には何軒も『薔薇族』を置いている本屋さんがあるそうですが、近所では顔見知りで買えないので、町はずれの知らない本屋さんで買っているそうです。
その本屋さん、心得ていてすぐにカバアをかけてくれるのだそうですが、買うとすぐに表紙を破り捨ててしまうのです。
そばで話を聞いていた、表紙絵を描いているべんさん、嘆くことしきりです。でも、そんな思いをして買ってくれているのだし、奥さんや、子供さんがいるのだから、仕方がないものね。みんなが寝静まってから読むのだそうです。
今年から表紙に内容を書いた文字や、写真は一切入れないことにしました。『薔薇族』という文字は取るわけにいかないけれど、この方がずっと買いやすいでしょう。」
こんな思いをして、多くの読者が買ってくれていたのかと思うと、心が痛むし、感謝の気持ちでいっぱいだ。
31年という月日が流れて、みんなの意識は変わっただろうか? カフエ「邪宗門」での「伊藤文学と語る会」も、もう11回目だろうか。初めての参加者が来てくれるとうれしいが、参加するのにはかなり勇気がいるようだ。行ってみようかと、軽い気持ちで参加する人はいない。まだまだ意識は変わらないのかも……。
| 固定リンク
コメント
医学生が「祭」に来ているなどの話を薔薇族に書いたら、その学生が落ち込んだということを、「まったく情けない話です」と書かれています。
しかしセクシュアリティをカミングアウトするしないは、個人の裁量に委ねられるべきです。異性愛者のあなたがカミングアウトしないという生き方を「情けない」と罵る資格はありません。強い怒りを覚えます。
>「伊藤文学と語る会」に行ってみようかと、軽い気持ちで参加する人はいない。
伊藤さん、あなたは70年代のままで思考停止してますよ?アゲハで開催されているゲイナイト・シャングリラには国内外から3千人のゲイが集うことを知らないんですか?90年代前半頃既に、歌舞伎町CODEや日比谷ラジオシティで数百~千人規模のゲイナイトが開かれています。S知事が問題発言した時もネットで呼びかけられて、新宿ロフトに数百人のゲイが集まって集会が開かれています。薔薇族に広告は載りませんでしたけどね。
あなたはネットをやらないから、現実のゲイの世界のことも、この20年でゲイの世界で起きた変化も知らないのですよ。
あなたはもう、時代の申し子。ゲイの世界から引退すべきだと思います。そもそもゲイではないあなたが、ゲイの世界に口出ししなくても結構です。
投稿: | 2012年10月 4日 (木) 01時02分
よくある誤解ですね。
話した人は相手の人を信頼して、暗黙に他の人には話を広めないことを前提条件で、相手の人ひとりだけに話したつもりだったと思います。相手の人の心の中にとどめておいてもらうつもりだったと思います。さらに前提条件はもっとせまく、気を許したその同じ相手でも、会っている場所が変わり、気を許せない場所にいる時は、その話題を出さないでほしいと思ってます。それは、自分がコントロールできない状態に話が広がるのがいやなのでしょう。それで、友人どうしでいうならば、相手から聞いた話をいっさい他人に口外しないのが、いちばんですね。
私も、相手がその話題を出さないでほしいと思っていた場所で、以前聞いた話題をうかつに出して、人間関係を2つこわしてます。
ゆうさん、感謝します。ルネさんの本、さがして読みます。
投稿: 薔薇族2号 | 2012年9月30日 (日) 19時35分
詐欺事件の顛末はパートナーだった内藤ルネさんの↓の本に詳しく書かれていますよ。http://www.amazon.co.jp/gp/product/4778030133/ref=olp_product_details?ie=UTF8&me=&seller=
投稿: ゆう | 2012年9月29日 (土) 15時05分
藤田さんは、その詐欺師を警察に訴えてお金を取り戻さなかったのでしょうか? 普通は、警察に訴えますが。
藤田さんでさえも、個人情報が知れるのを恐れて警察に訴えなかったのでしょうか?
また、どういういきさつの内容なのか詳細を知りたいですね。
投稿: 薔薇族2号 | 2012年9月29日 (土) 01時03分