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2013年2月 2日 (土)

大きなアンティークの机に向かって書いてはいるが!

 文芸書の出版をずっと続けてきた父が、面白くないと思っただろうが、小出版社が生き残るためには、エロ本しかないと、一気に方向転換してしまった。

 その最初の本が、武野藤介さんの『わいだん読本』(昭和37年 西暦1962年)だ。父は小出版社が経費を削減するには、著者に支払う印税しかないと考えていた。

 初刷を5千部刷ったとしても、奥付には3千部とするという方法だ。父のこのやり方には、ぼくは納得できなかった。

「NIGHT BOOKS」は、著者に支払う印税を買取制にしてしまった。「5万円しか払えませんが、よろしいでしょうか」と、最初から切り出したのだ。

 その頃、2流、3流の週刊誌や、月刊誌に連載している著者が多かった。すでに雑誌社から稿料をもらっているので、単行本になって、少しでも稿料をもらえたらいいと、承諾してくれた。 

 武野藤介(本名・真寿太)さんは、早稲田大学を中退し、新聞記者生活を経て作家生活に入り、小説、随筆、とくにコントを得意としていた。 

 井の頭線の吉祥寺に近いところに住んでおられて、よくお邪魔したものだ。序文にこんなことを書かれている。

「私は少年時代から「本」が好きで、愛書家というよりは乱読家であるが、今でも私は手当たり次第になんでも読む。その乱読の結晶がこの本だと言える。

 話題にとぼしく、また話題の欲しい人は遠慮なく、この本からそれぞれのお好みによって、ご自分の「話」のような顔をして吹聴されてよろしかろう。」

 武野さんのように、本好きでいろんな本を読んでいれば、今の時代であればブログを書くのにネタ切れということはないだろう。

 悲しい話だが、本をまったくといって読まないぼくにとっては、正直な話、ネタ切れになることがある。

 こんな何十年も前に出版した本の中から、自分の話のように書かなければならないとは。このシリーズを60数冊も毎月一冊ずつ出し続けたので、わが社の経営も楽になったのだから、忘れることのできない本だ。

 早速、武野さんのコントをひとつ。「左団扇」という話だ。

「チェホフの手記に「私は早く年をとりたいと思う。そしておおきな机に座ってみたい」と書いているが、これは老境の安定生活を願望したものにちがいない。

 医者だったチェホフは、その職業のかたわら、小説や戯曲を書かなければならなかったので、その多忙な生活にやりきれなかったのだろう。

 この二重生活が嫌で、年をとったら文筆一本に、大きな机の前に落ちつきたいと思ったのだ。そんなことが想像される。

 日本語では、そんな老境の安定生活を「左団扇」というのである。

 ルナアルも、その日記に、「私は早く年をとりたいと思う。そして私が抱いて寝たがっていると感じさせないで、美しい若い女の顔を眺めながら、さし向かいで座っていたい」

 と、そういう意味のことを書いている。この私なども、ちょうど今、そんな老境なので、ルナアルのこの気持ちが分かるような気がしてならぬ。

 セックスの飽満したあとに迎えたこの老境は、これも一種の「左団扇」ではないかと思っている。」

 英国アンティークの、弁護士や、学者が使ったと思われる、大きな机に向かってぼくはこの原稿を書いているが、「左団扇」どころか、どん底生活とは、なんということか。

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第16回「伊藤文学と語る会」

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2月16日(土)午後2時~4時(予定) ※途中参加・中途退出自由。
会費なし(コーヒー代の実費のみ)
会場:下北沢 カフエ「つゆ艸」
住所:世田谷区代沢5-32-13 露崎ビル1F TEL 03-6805-5385

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初めての方、女性の方、ご年配の方、お一人様、大歓迎!
お気軽なご参加を、お待ちしております。

 

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