« ぼくにしかできないことが、まだある? | トップページ | 第26回「伊藤文学と語る会」 »

2014年1月20日 (月)

刑事と知らずに恋してしまって!

 京都に住む鞍嶽三馬さんに、ホテル「英都」のルポをお願いしていた頃、ぼくは完成間近の歌舞伎町のホテル「大番本館」に、社長のNさんを訪ねた。
 
 作業服にヘルメット姿で、工事現場から出てこられた姿は、土建屋の社長さんという感じで、大きなギョロッとした目、いかにもゴツイ出で立ちの中でも、どこかやさしがにじみ出ている人だった。
 
 近くの喫茶店で、お話を伺ったが、歌舞伎町のど真ん中に、6階建てのビルを建て、それも土地を買収してのことだから、大変なことだ。
 
「ぼくはこの世界の人間だから、儲けようと思ってやっているのではない。これだけのお金を掛けたら利子だけでも大変なんですよ」
 
 ホモなんていう言葉がなかった時代(昭和20年代から30年代)に、社長は上野のI旅館に勤めていたそうだ。
 
 ある日、その旅館が警視庁の本庁から、直接の手入れがあって、40数名のお客さん、全員が逮捕されるという事件があった。
 
 草創期の人たちは、いろんな苦労を重ねていた。警察に連行された、40数名のお客さん、調書を取られただろうが、会社に知られやしないか、またケンコンしている人たちもいたろうから、どんなにびくついたことだろうか。
 
 この上野の旅館でも、手入れのかなり前から、何人もの刑事が潜入して調べていたそうだ。その中の一人の年配の刑事をある青年が、猛烈に恋してしまっていた。刑事だということを知らずにだ。
 
 情が移ったというのか、手入れの当日も、その青年は旅館に来ていたが、その年配の刑事の命令で、「個室から絶対に出るな」ということで、ふるえながら個室にとじこもっていた。
 
 窓から裸で逃げた二人のお客と、年配の刑事と知らずに恋してしまった青年だけが、逮捕されなかった。
 
 なんともほのぼのした話ではないか。
 
 N社長は「大番本館」を建てるにあたって、旅館の許可と、サウナの許可と、簡易宿泊所の許可と、とれるものは全てとったそうだ。
 
 それは過去の苦い経験から、絶対に二度と、このような思いをお客さんにさせてはならないという強い気持ちからだった。
 
 N社長の話を聞きながら、感無量だった。
 
 一見、天国のように見えるほど、旅館やサウナなどが乱立するようになって、何の心配もなくお客さんは足を踏み入れているが、草創期にはこんなこともあったということを、少しは思い起こしてほしい。
 
 アメリカでさえ、ニューヨークのゲイバアにたびたびの取締当局の手入れがあって、それに反抗して警官に意志を投げて抵抗したことが、ゲイパワーの始まりになった。
 
『薔薇族』も、創刊して数年後、4回も発禁処分を受けたけれど、それに負けずに出し続けたから、今日があるということだ。
 
 しかし、草創期に活躍した人たちも、ほとんどこの世にいない。N社長も数年前に亡くなられている。
 
 毎日のように訪れている、下北沢南口のカフエ「つゆ艸」で、昭和20年に生まれたという方と出会った。その頃の男はみんな兵隊にとられていなかったから、20年生まれという人は少ないだろう。その人のお父さんが体の弱い人だったので、兵隊に取られなかったから、彼が生まれたということだ。
 
 今の世の中、戦争を体験していない人が大多数を占めている。政治家もみなそうだ。戦争の悲惨さを知らない人たち、また戦争をしようなんていう人も、少しずつ増えてきているような気配もある。
 
 なんとしても、戦争だけはしてはいけないのだ。

|

« ぼくにしかできないことが、まだある? | トップページ | 第26回「伊藤文学と語る会」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/101967/58906878

この記事へのトラックバック一覧です: 刑事と知らずに恋してしまって!:

« ぼくにしかできないことが、まだある? | トップページ | 第26回「伊藤文学と語る会」 »