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2014年4月12日 (土)

愛し、慈しむことに差別が許されるのか? ―映画『チョコレートドーナツ』が訴えるもの― 松下芳雄

 華やかなスポットライトを浴びて歌いまくるドラーグ・クイーン、ルディ。その魅力の虜になったのは若い弁護士ポール。二人は一瞬で惹かれ合い恋に落ちる。ニューヨーク。ブルックリン、七十年代の夜。仕事柄カミングアウトできないポールだが率直であけすけなルディの元にしばしば通うようになる。
 
 ある日、ルディは人形を抱いて街をさまようダウン症の少年マルコを発見、ポールに助言を求めたが「家庭局に相談して施設に預けろ」と言い放たれて落胆、マルコを自宅に連れ帰る。しかし家庭局職員と捜査員が現れて事態は思わぬ方向へ。マルコの母は薬物所持で逮捕されたと言うのだ。そしてマルコは強制的に連れ去られて施設入りに。その翌日、ルディの期待に応えられなかったことを詫びにポールがやって来て互いの過去や思いの深さを打ち明け、より愛しあうようになる。だがポールと別れた後、母に会いたい一心で施設を抜け出し、とぼとぼと人形を抱きしめて歩くマルコを見かけたルディは不憫さにかられて衝動的に自宅に連れ帰ってしまう。
 
 ルディの夢はペット・ミドラーのようなシンガーになること。ポールは法律で世界を変えること。マルコはドーナツ好きで優しい性格。二人を信頼しているが自分を捨てた身勝手な母親も忘れられない。そんなマルコを二人は自分たちで育て守ろうと決意する。初めて学校に通いだすマルコ。本当の両親のように接する二人。だがとんでもない災難が降りかかる。
 
 ポールの上司のパーティでゲイ・カップルであることが知れ渡ったのが試練の始まりだった。再びマルコは家庭局へ。ポールは解雇されてしまうがくじけなかった。
 
「今こそ法律で世界を変えるチャンス」とルディに背中を押されたポールは養育権をめぐる裁判に臨む。しかし二人がマルコを心底愛していることを述べる証言者たちの言葉もゲイに対する偏見を変えられなかった。おまけに服役中のマルコの母親までが証言台に立つに及んで状況は不利になるばかり。傲慢そのものの相手側弁護士。頑迷そのものの女性判事。果たして二人の主張は受け入れられるのか?
 
 日本ではこの種の裁判が行われたことなど無いのではないか? 故にこそ必見の価値有りといいたいのだが、世界中で最もゲイに寛容と思われるアメリカにしてこの現状。ヒューマニズムと正義の国の看板はどこに行ってしまったのかとさえ思いたくなるけれど最後の最後、小さな小さな希望の灯がともる…
 
 七十年代、実際にニューヨーク・ブルックリンであった事件だそうだが、映画の視点は人間社会全体の不条理に向けられているように思える。口先だけの正義派、政治家。生活弱者や高齢者の援護を叫びながら実際には何一つ行動しない識者、評論家。個人同士といえど『隣は何をする人ぞ』が常態化したかの如き個食族…と、こんな社会に誰がしたと言いたくなることばかり。
 
 本作は『障害を持ち、母親に育児放棄された子どもと、家族のように過ごすゲイの話』をさまざまな映像アートで活躍するトラヴィス・ファインが監督、脚本、製作まで手がけた。脚本にはテレビを中心にエミー賞受賞歴もあるジョージ・アーサー・ブルームも加わって温もりに満ちた人間関係と狡猾な社会の暗部をも抉り出して見せる。だが何といっても主役三人の熱演に注目してほしい。
 
 ルディに扮するアラン・カミングは『スマーフ』や『テンペスト』などでおなじみだが市民権運動や性教育でも活動し『中傷と闘うゲイ&レズビアン同盟』のヴィト・ルッソ賞を受賞、オリジナル香水を販売、売上の全てを国際ゲイ&レズビアン人権委員会などに寄付している奉仕家の側面を持つ。ポール役のギャレット・ディラハントは「ノー・カントリー」や「ウインターズ・ボーン」など社会派の名作に出演した演技派だが冷静かつ巧まぬ表現力に奥深さを感じる。マルクを演じたアイザック・レイヴァは自身ダウン症ながら読書家であり俳優としての将来を目指しているとかで、異色の名優誕生の可能性は十分。自然で愛らしい笑顔が忘れられない。
 
 くどいようだがゲイや障害者を異常とみなし蔑む社会のあり方は今も正されていない。異教徒への攻撃に狂走しながら心の救いを説く宗教家に矛盾と疑問を持ちたくなるのは私だけだろうか?
 
 何はともあれこの映画を見ることで、ひとときでもみずからの日常を振り返り多少なりとも安らいでいただければと思う。ラストシーンは少し寂しく、少し哀しいがあなたなりの小さな幸せを必ず得られるのではなかろうか。
 
 因みにこの映画はアメリカのみならず世界の映画祭で観客賞など多数の受賞を果たしたことを付け加えておきたい。生きとし生けるものすべてに放たれた愛の力が多くの観客の心に響いた結果だろう。
 
20140410
(C)2012 FAMLEEFILM,LLC
 
4月19日(土) シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
2012年 アメリカ映画 97分 配給:ビターズ・エンド

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投稿: just click the next document | 2014年5月 9日 (金) 18時06分

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投稿: you can find out more | 2014年5月 8日 (木) 08時24分

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愛し、慈しむことに差別が許されるのか? ―映画『チョコレートドーナツ』が訴えるもの― 松下芳雄: 伊藤文学のひとりごと
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投稿: www.besthawaiirentals.net | 2014年4月22日 (火) 08時32分

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