お月さんだけが見て知っている!
3月の初旬のことだった。『薔薇族』の読者だったそうで、3月18日に神戸から上京するので、ぜひ、お会いしたいと、Sさんという方から電話があった。
ぼくが経営していた、下北沢北口のカフエ「イカール館」で、学生時代に何度か出会ったというが、まったく覚えていない。
そのとき19日がぼくの82歳の誕生日ですよと話したら、ぜひ、お祝いさせてほしいということだ。
夕方の6時に渋谷の東急プラザ5Fのカフエで待ち合わせることにした。6時ちょっと前に入ろうとしたら、「伊藤さんですか?」と、声をかけてきた男性は、頭がつるつるで僧衣を着たお坊さんだった。
高速道路の向かい側の「セルリアンタワー東急ホテル」の和食の店に、6時に予約してあるという。2Fの「金田中・道」という、優雅なお店だ。
先日、テレビで見て知ったことだが、桜が東京で咲く前から刈り取って保存し、デパートやホテルなどで、花を早めに咲かせるという仕事師のことが紹介されていた。
ホテルのロビーにも、「草」の店先にも、満開の桜が、大きなつぼに活けられ、贅沢感を感じさせるというわけだ。
和食が世界中の人から注目されているようだが、10数年前、アメリカのロスや、サンフランシスコのホテルでの食事は、量が多いだけでおいしくはなかった。
次から次へと料理が運ばれてきて、量は少ないけれど、その盛り付けや、皿には繊細な神経がゆきとどいて、見事だった。
Sさんは誕生祝いにと、神戸の「和楽屋おかめ」というお店から、志野焼のコーヒー茶碗2ケと、「モンロワール」というお店の「神戸プチフィナンシエ」のチョコレートを贈ってくれた。
Sさんはホテルの35Fに部屋をとってあり食事の後に移動した。大きなガラス窓の向こうには東京の夜景が広がっている。
ライトアップされた「東京タワー」や「スカイツリー」も見え、夜空には満月が輝き、しばらくぶりに高いところから見る東京の夜景は美しかった。
数多くの雑誌が刊行されているが、8年も前に廃刊になってしまった『薔薇族』の編集長だったぼく。どの雑誌にも編集長はいるだろうが、かつての読者の一人に、このようにな豪華な誕生日を祝ってもらっている編集長はいないのでは……。
Sさんは携帯で、マッサージの先生をホテルに呼んだ。Sさんは上京するたびに、この先生を呼んでいるそうだ。
マッサージの先生も『薔薇族』の読者だった人で、10数年前にわが家に何度かきてもんでくれたとかで、ぼくに会いたいという。さて、うっすらと先生を呼んでもんでもらった記憶があるが忘れている。
先生がやってきて、ぼくのからだをもんでくれるという。マッサージの先生を自宅に呼んでなんていうことは、今のぼくにはできるわけがないのでありがたかったが……。
ちょこっとだけもんでくれるのかと思ったら、フルコースで一時間以上も丁寧にもんでくれた。ベッドから落ちて腰を痛めたところは念入りに。
おふたりとも結婚していて、お子さんもいるという。住所も電話番号も教えてくれない。
今夜の出来事は、満月のお月さんしか知らない夢のようだった。
12時近くなのでバスはもうない。タクシーで帰ることにしたので、ホテルの玄関先まで送ってくれたが、タクシー代にしてと、封筒を渡された。
帰宅してから封筒を開けたら、2万円も入っていた。
お礼を言いたくてもできない。お礼は『薔薇族』という雑誌にするべきだろうか。
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コメント
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