「ちりめんじゃこ」よ、さようなら!
代沢3丁目の大地主、阿川さんの建てたマンションに移り住んでから、早いもので5年近くになる。
それまでは下北沢の商店街が近かったので、買い物は駅周辺のスーパーで求めることが多かった。
代沢3丁目のわが家からは、下北沢の街に行くのに20分以上かかる。「淡島」の停留所までは、3,4分。渋谷行きの東急バスは、驚くほど、ひんぱんに運行されていて、バスに乗れば10分ほどで渋谷に行ける。
身体障害者手帳を見せれば、子供料金でバスに乗れるのだ。バスを降りれば、目の前のビルが東急プラザだ。
5階に「紀伊國屋書店」があり、その同じ階にカフエ「シャリマル」がある。大きなつぼに豪華な生花がど〜んといけてあり、このカフエが誰かと待ち合わせるときの場所になっていた。
地下1階には食品売場があり、庶民的で駅の地下の「のれん街」とは比べようがないくらい安い。5時を過ぎると、お惣菜売場は半額に値下げする。
一軒のお店が出しているのではなく、小さなお店が集まってできている食品街だ。大きな樽に「ちりめんじゃこ」を入れ、一合枡に山盛りにして売っている。
売っているおばさんと、いつも買いにいくものだから親しくなって、おまけしてくれる。「ちりめんじゃこ」って、なんの魚と思ったら、テレビのクイズ問題で、いわしの稚魚だということを知った。
ぼくは朝ごはんのとき、毎日、大根おろしの上に「ちりめんじゃこ」をひとつまみのせ、醤油をかけて食べている。これがぼくの健康の元かもしれない。
ところが困ったことに、東急プラザの建物が49年も経ち、老朽化しているので、3月22日で幕を閉じ、解体されてしまうのだ。
カフエ「シャリマル」は、ポイントカードを発行していて、来店1回につき、1ポイント捺印してくれる。10ポイントたまると、ケーキか、サンドイッチをサービスしてくれる。
常連客のぼくは、何度サービスのケーキを食べたことか。この店がなくなってしまうと、この近辺にはカフエがない。待ち合わせ場所がなくなってしまうのだ。
名前も聞いていないが、いつもおいしいコーヒーをいれてくれている、おじさんともお別れだ。地下の「ちりめんじゃこ」売場のおばさんも、記念に写真を撮らせてもらったが、78歳だそうで、仕事から引退するそうだ。
このビルも「ヒカリエ」のような高層ビルになる。ここ数年で渋谷はどんな街になるのだろうか。
現在、ハチ公の銅像が建っているところから、須田町行きの電車が出ていた。駒大を卒業して、父の出版の仕事を手伝うようになってから、須田町行きの電車に乗ることが多かった。
その頃、本の取次店(本の問屋)は、九段下には、トーハン、大阪屋、大洋社があり、いわゆる神田村には、三和図書、鈴木書店、中央大学の正門前には、神田図書があり、坂を登ってニコライ堂のそばには、日販がある。
最後に坂を下ると、須田町、そこには中央社があった。九段下から須田町まで、歩いて3,40分はかかったろうか。その頃は若かったから、歩いても苦にはならなかった。
そのうちスクーターに乗るようになり、車になっていった。晦日の日、九段下から須田町までの8社を集金のために歩いていた頃が、一番なつかしい。今でも街並が、はっきりと浮かんでくるほどだ。
さよなら東急プラザ
このおじさんの淹れるコーヒーはおいしかった
「ちりめんじゃこ」を売っているおばさん
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