自分と同じ人間が他にもいる!
「僕は小さいときから「差別」ということが大嫌いでした。中学生のころ、妹と一緒に街を歩いていたとき、黒人が向こうから歩いてきたのです。
妹は指をさしながら、「黒人だ! 黒んぼだ!」と叫んだのです。僕は妹の手をはたき、「そんな言い方はよせ。お前は同じ人間を差別しているんだぞ!」と、叱りつけました。妹はその意味がよくわからなかったのか、ただ、じっと僕の顔を見つめていました。
そんな僕がゲイになったなんて皮肉ですね。いや、ゲイになったという言い方は正しくないな、ゲイだということが分かったと言うべきですね。
自分がゲイだと自覚した時は、やはり悩みました。自分は異常なのだろうか、自分と同じ人間が他にもいるのだろうか……と。
百科事典を見たり、図書館で医学書を調べたり……。なんとか自分と同じ人がいないかと、必死でした。
高校の時、同じ運動部の仲間が、『薔薇族』のことを話題にし、その時、初めてそういう本があることを知りました。
そしてある日、本屋で『薔薇族』に出会ったのです。自分と同じ人間が、他にも沢山いるんだということが、分かっただけでも、どれだけ救いになったことか。(中略)
僕は今度、大学の4年(23歳)になります。就職の問題があり、そして次は結婚です。
僕の両親は、長男(男ひとり)である僕が就職し、結婚して落ちついてくれることを望んでいるでしょう。そして孫の顔をみることを楽しみにしているでしょう。そんな両親に、なんと言って納得させたらいいのでしょうか。
一度、『薔薇族』が両親に見つかってしまったことがありました。その時、なんと言って言い訳をしようかという気持ちと、これで両親に隠れて、こそこそしなくてもすむかもしれないという、半ば開き直りの気持ちが頭の中を交錯しました。
しかし、親というものは、まさか自分の子供だけは、という気持ちが働くものです。一時的な遊びかもしれないけれど、こんなことを長く続けると、抜けられなくなってしまうよという言葉で片付けられてしまいました。
両親に理解してもらえなかった失望感と、理解してもらおうと努力しなかった自分のふがいなさにしばらくは、食物がのどを通りませんでした。
今、両親は僕のことを疑いつつも、ちゃんと結婚してくれることを望むまなざしで見つめています。(中略)
人間はひとりだけでは生きていけるものではありません。両親や、親類、友人、いろんな人と関わりあって生きていくものです。だからこそ、われわれの気持ちをいろんな人に理解してもらうべく働きかけなければいけないんじゃないでしょうか。
ゲイの人の中には、ゲイのことを表に出すなという人もいるかもしれません。しかし、結婚事で多くのゲイの人たちが悩んでいるという事実がある以上、そういう人のために、力をあわせるべきではないでしょうか。
少数者であるがゆえに、蔑視されているわれわれなのだから、そのなかでまた結婚について悩んでいる人たちのことを無視すべきではないと思うのです。
両親にさえも告白できない僕が、こんな生意気なことは言えた義理じゃないのですが、社会人になるという岐路に立っている今、切実に考えざるをえないのです(千葉県・大学4年生)」
35年も前の大学生の悩み。しっかりした考えをもっている大学生だから、その後の人生を強く生きぬいたと思う。
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