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2016年12月18日 (日)

心中するしか逃げ場がないとは!

「大正3年9月28日の」ことだった。新吉原江戸町2丁目の中村楼にいる常盤木という娼妓から1通の手紙が伊藤君(ぼくの祖父)のところに届いた。
 
読んでみると、ひらがなと、カタカナとをまぜこぜにした、さっぱり分からないものではあったが、それでも廃業したいから、ぜひ来てくれというのであった。
 
早速行って会ってみたが、形容のできないほど、意志薄弱な女で、どうにも手のつけようがなかった。
 
「とにかく、あなたは今日限りで娼妓をやめたいと思うのですか」
 
「はい、もう一日もこんな稼業はできませんから、やめたいと思います」
 
「では、これから僕と一緒に警察に行きましょう」
 
「だけど、おかみさんに叱られますから」
 
「自分の意志で廃業するんだから、おかみさんだって、誰だってそれを邪魔する権利はないのです」
 
「警察に行ったら、きっと巡査さんに叱られるでしょう」
 
「そんなことはない。僕がそばについていてあげるから」
 
「廃業したあとで、私はどうなるのでしょう」
 
「堅気になって働けばいいのじゃないですか、まだ若いのだから」
 
「だって女郎なんかした者を、やとってくれる人はいないでしょう」
 
「そんなこと言っていては、らちがあかない。早く決心しなさい」
 
「ええ、決心はしているんだけど、私・・・」
 
そんな問答を百万べんとくりかえしても、なんにもならないと思ったので、伊藤君は最後の駄目を押して、一緒に警察に行くだけの勇気が出たらいつでも、救いに来てあげるからと言い置いて帰った。
 
ところが一週間ほどたって、常盤木はなじみ客に頸動脈を切られて死んだ。男も一緒に死んだので、死人に口なし、事情はさっぱりわからないが、伊藤君は面会をしたときの事情から察すれば、やっぱりぐずぐず言っているうちに、男から無理心中をさせられたものであろう。
 
その翌年、9月4日のことであった。同じ新吉原の「一力楼」にいる春駒という娼妓から手紙で自廃の助力を求めてきた。この女性は常盤木よりも学問があって、手紙もひととおり読めるように書いてあった。
 
手紙を読むと、すぐに伊藤君は面会に行ったところが、一力楼はなかなか面会をさせない。
 
とうとう交番の巡査に頼んで、面会をすることはできたが、楼内で面会をされては、他の娼妓たちへ、自廃を伝染してはならないというので、仲の町の写真屋の2階で、おかみ立ち会いのもとで、面会してみると、春駒はかわいそうに、脳梅毒のために髪がすっかりぬけてしまって、かつらをかぶって商売をしているのであった。
 
伊藤君と春駒との間にいろいろな問答があった末に、いよいよ所轄署に出て名簿削除の申請をしようという段になると、そばにいる女将の顔色をうかがって黙り込んでしまう。
 
女将はそこにつけこんで、「ただ今、主人は不在中ですから、帰り次第すぐ立派に廃業させてあげます」と、さもまことしやかに言ったので、すっかりだまされて、春駒は伊藤君にきょうはこのままひきとってほしいと言った。(中略)
 
かつら女だと知ってか知らないでか、なじみでもない客と、刃物心中を企てて二人とも絶命した。」
 
医者の話によると、「遊郭で心中する男も女も、性病からくる麻痺性痴呆症患者ですよ。この患者だけはどうにも手におえない」と。
 
哀しい話ではある。

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