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2017年5月15日 (月)

脳梅毒のために髪が抜け落ちて!

『娼妓解放哀話』から、もうひとつの話。
 
「大正3年9月28日のことであった。新吉原江戸町2丁目の中村楼にいる常盤木という娼妓から、1通の手紙が伊藤君のところに届いた。
 
読んでみると、ひらがなと、カタカナとを混ぜこぜにした、さっぱりわからないものではあったが、それでも廃業したいから、ぜひ来てくれということは読みとれた。
 
早速行って会ってみたが、形容のできないほどの意志薄弱な女で、どうにも手のつけようがなかった。
 
「とにかく、あなたは今日限り娼妓をやめたいと思うのですか?」
 
「はい、もう1日もこんな稼業はできませんから、やめたいと思います。」
 
「では、これから僕と一緒に警察に行きましょう」
 
「だけど、おかみさんに叱られますから」
 
「自分の意思で廃業するんだから、おかみさんだって、それを邪魔する権利はないんです」
 
「警察に行ったなら、きっと巡査さんに叱られるでしょう」
 
「そんなことはない、僕がそばについていてあげるから」
 
「廃業したあとで、私はどうなるんです」
 
「堅気になって働けば、いいじゃないですか、まだ若いんだから」
 
「だって女郎なんかした者をやとってくれる人はいないでしょうから」
 
「そんなこと言っていては果てしがない。早く決心しなさい」
 
「ええ、決心しているんだけど、私……」
 
 
 
そんな問答を百万べんくり返しても埒が明かないと思ったので、伊藤君は最後の駄目押しをおいて、一緒に警察にまで行くだけの勇気がでたならいつでも、救いに来てあげると言い置いて帰った。
 
ところが1週間ほど経って、常盤木はなじみ客に頚動脈を切られて死んだ。
 
男も一緒に死んだので、死人に口なし、事情はさっぱりわからないが、伊藤君の面会した時の事情から察すれば、やっぱりぐずぐず言っているうちに男から無理心中させられたものだろう。
 
その翌年、9月4日のことであった。同じ新吉原の一力楼にいる春駒という娼妓から手紙で自廃の助力を求めてきた。
 
この女性は常盤木よりも学問があって、手紙も一通り読めるように書いてあった。
 
手紙を読むとすぐに伊藤君は面会に行ったが、一力楼ではなかなか面会させない。
 
とうとう交番の巡査に頼んで面会することができたが、楼内で面会されては、他の娼妓たちへ自廃が伝染してはならないというので、仲の町の写真屋の2階でおかみ立会いのもとに面会してみると、春駒がかわいそうに脳梅毒のために、髪がすっかり抜けてしまって、かつらをかぶって稼業をしているのであった。
 
 
 
春駒は伊藤君に、今日はこのままひきとってほしいと言った。(中略)
 
かれこれするうちに9月も末となった。
 
かつら女だと知ってか知らずか、なじみでもない登楼客と刃物心中を企てて、二人とも絶命した。
 
後で同楼から自廃した女に聞いてみると、春駒はちょっと顔立ちのいい女であったから、かつらをかぶった女とは知らずに登楼した男が、酒に酔っぱらって、無理にかつらを取ってみたがるのがつらいと言って自廃を思い立ったのであって、かつらをとって見ろという男は登楼者だけに限ったことではないのだから、いろいろと考えあぐんで末が、心中ということに落ち着いたらしい。
 
千人近い自廃娼妓をとり扱った伊藤君が、その目的を達しえないで、心中の悲劇に走らしめたのは以上の3名だけであった。
 
遊郭で心中する男も女も、ことごとく性病からきた麻痺性痴呆症患者ですよ。この患者だけは手に負えないと、医師に教えられたそうだ。

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