老後のことなど考えていないうちに!
1985年1月号(今から32年も前のことだ)ぼくが52歳の頃の『薔薇族』だ。
そんな若い頃の話なのに、「伊藤文学のひとりごと」のコーナーに「誰もが歳をとるのです」のタイトルで、ぼくはこんなことを書いている。
「昭和57年3月29日(1982年、35年も前)に亡くなられた、漫画家の富田英三さんがお元気だった頃の話です。
日本で一番早く『ゲイ』という単行本を出され、またアメリカのグリニッジビレッジの風俗をいち早く持ち帰って、若い芸術家を集めて「ビザールの会」を結成したのです。
「ビザール」とは、「風変わりな」という意味で、ちょっと変わった人間ばかり集まっていたのです。
とにかくいろんなことをやって、ぼくら夫婦(先妻の舞踊家・ミカ)も参加していた。
いちばん新宿が若い芸術家が集まって、燃えていた時代です。
(富田さんはパーティ好きで「マルキド・サドのジュスティーヌ」という映画が日本に入ってきた時に、ヘラルド映画が宣伝のために、渋谷の山手教会の地下の劇場「ジャンジャン」で、宣伝のためにマスコミを集めてイベントを開らき、ミカの踊りが話題を集めた)。
その頃の仲間の1人のFさんという広告代理店に勤めている人がいました。
ちょっと暗い人だなという印象があったけれど、当時のぼくはゲイの世界を知らなかったから気にも留めなかったが、時代が変わって、ぼくが新宿に「伊藤文学の談話室「祭」」を出した頃、そのFさんがひょっこり顔を出したのです。
Fさんのことなど忘れてしまっていたころ、突然電話がかかってきたのです。
下北沢の喫茶店で会ったのですが、前から痩せて神経質そうな人だったけれど、なおさら痩せてしまっていました。
ぼくより先に喫茶店で待っていたのに、何も注文していないのです。
もう、Fさんは60歳になっていたのです。
ぼくだって52歳にもなっているのだから、あっという間に20年以上も経っていたのです。
Fさんはまったくの無一文なので、コーヒーを注文しなかったのです。
最近、自殺未遂までしてしまって、東京にまた舞い戻ってきたとのことでした。
「どこかゲイ旅館で働くところがないでしょうか」というのが、ぼくを訪ねてきた理由だったのです(もう忘れてしまってるが、少しはお金をあげたのでは)。
しかし、ゲイ旅館といっても、60歳を過ぎた人をやとってくれません。
紹介をしたものの、どこも断られてしまいました。
Fさんのことから色々と考えさせられてしまったのですが、ぼくも14年間、いろんな読者を見てきました。
年配の人で女性と結婚せざるをえなくて、なんとか結婚して、子供を作った人。
うまくいかないで離婚してしまった人もいるでしょうが、そうした人たちは、まあ、まあうまくいっているようです。
ところが結婚しないで、1人で生活している人達です。
全部が全部みじめになっているわけでないし、優雅に暮らしてる人も多いが、Fさんのような人もいるのです。
女性と結婚して家庭を作れば、家も建てなければならないし、子供がいれば教育費もかかるから欲望のままにというわけにはいきません。
ひとり暮らしの人は自由気ままで、見栄っ張りで、おしゃれな人も多いから着る物や食物にぜいたくしてしまう。
それに飽きっぽい人が多いから、一つの仕事が長続きしない。
若いうちから老後のことを考えて、貯金もしておかねば。
みんな誰もが歳をとるのです。
歳をとったからといって死ぬわけにいかない。
みんな老後のことを考えましょう。」
いいこと書いてるけど、お前の今はどうなんだと言われてしまいそう。
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コメント
「見栄っ張りで、おしゃれな人も多い。飽きっぽい人が多い」は、伊藤さんの偏見で、これはすべての人間に基本的に当てはまることです。それが子供を育てる環境いた場合、生き方の価値観が変わるだけのことです。
投稿: | 2017年12月16日 (土) 14時00分