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2018年2月 5日 (月)

関東大震災を体験した人はいない!

ぼくの祖父、伊藤冨士夫は、大正12年6月2日、53歳で病死している。関東大震災はその年の11月1日のことだから、数か月前に亡くなっているので、震災にはあわなかった。
 
家族は都心から離れた牛込富久町に住んでいたので、みんな無事だった。
 
新潮社は新築した社屋も、社員もすべて無事、印刷所も無事だったので、『文章倶楽部』10月特号には、執筆36家、「凶災の印象 東京の回想」と題して、当時活躍していた西条八十、芥川龍之介、竹久夢二、吉屋信子などに震災の体験記を書かせている。
 
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東北での地震、洪水のことなど、すでに忘れられているが、次から次へとおこる災害に、多くの人々が亡くなった関東大震災のことを若い人たちに知ってもらうことも大事だろう。
 
人々が不安な気持ちを抱いているときに、流言飛語(デマ)がとびかい、韓国の人たちが井戸に毒を投げ込んでいるというので、各地に自警団を結成して、警戒していたようだ。
 
今、東京に大地震が発生したら、後の世の人のために、ぼくはどんなことを書き残すだろうか。
 
新井紀一さん、作家だと思うが、全く知らない方だ。このひとの書いていることが短い上に地震のさまをよく描いているので、紹介してみたい。「刹那」と題している。
 
 
 
「はっと思うと自分は「厠(かわや・トイレのこと)」をとび出した。尾籠な話だが、自分はそのとき、昨日からの下痢で厠にはいっていたのだ。
 
ぐらぐらっと、きたかと思うと、見る見るうちに壁は裂け、砂を落とし、きしみ、菱形になり、床は船にでも乗るように、いや、それよりも急激に動揺しだしたのだ。
 
横手の木戸から裸足のままとび出すにはとび出したが、見上げれば2階の屋根が2尺ぐらいも、ぎしぎしきしみながら揺れている。
 
いつそれが頭の上に、ガラガラっとくずれてくるかも知れない。足の下がゆらゆらする。電車に乗っているよりも烈しく動揺する。
 
なかなか足が進まない。4、5間ははなれたところで家の様子を見ている。そのときも、ぐわら、ぐわら、ずし〜んという小音が何度か自分の耳を打った。
 
素早い、いちべつをその方向へやる。すさまじい土埃が立っている。と、次の瞬間には、今まで目の前にそびえていた家がぺしゃんこになっている。
 
周りの家からは、ガラガラとかわらがずり落ちてくる。
 
ふとわれにかえれば、自分はひとりきりだ。父も母も、弟も、妹もいったいどうしたと言うのだ。何をぐずぐずしてるというのだ。
 
だれひとり家の中から出てはいない。様子を見ようにも危なくて家へは近寄れない。声を限りに叫んだ。やがて少し静まったとき、ぞろぞろ出てきた。
 
「柱につかまったまま動けなかったのだ」と母が言う。
 
弟は弟で家から少ししか離れていない欅の木によじ登っていたのだという。
 
家がつぶれなかったから助かったようなものの、もし家がつぶれたのならひとりとして助からない連中だ。
 
近所に住む文学青年のT君がとんできた。一緒に土手へ出てみる。恐ろしい避難者の群衆で、火事は土手の下、一面にひろがるあしの原を越した対岸の製靴会社である。
 
火焔はめらめらと天に渦巻き、地をなめ、奔放の限りを尽くしている。
 
T紡績がつぶれて女工が300人死んだ。製靴会社では、百人ぐらいは死んでいる。
 
群衆をかきわけてトラックが走ってきた。大根か芋でも積んだように、血みどろの人々が無造作に積み込まれている。生きているのか、死んでいるのか分からない。」
 
 
 
大地震はいつやってくるのか。
 
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