木は朽ち果てることはない!
ぼくが平成5年11月1日に女房の古里・新潟県弥彦村(人口約8000人、弥彦神社、弥彦山で栄える村)に、「ロマンの泉美術館」をオープンさせた。
この美術館は美輪明宏さん、内藤ルネさん、宇野亜喜良さんなど、また美意識の高い『薔薇族』の多くの読者との付き合いの中で、自然と身に付けた感性や、美意識の集大成というべきものだった。
新潟市に住む詩人の松井郁子さんが、オープンして折に、こんな文章を寄せてくれた。
「コナン・ドイルの「シャーロックホームズ」に登場するような径を抜けると、闇の中に幻のように白い建物が現れた。
――何故、こんな所に、こんな建物が?――
私は目を見張り、息を呑んだ。
足が震えるような驚きだった。
12月の風は身を切るように冷たい。
その風が雲を追い払うと、月が煌々と美術館を照らし出した。
屋根の上の風見鶏、少女のブロンズ、ステンドグラス……私の深い所から熱いものがこみ上げてきた。
自分の住む世界を漸く見つけたような、長い間待っていたものに巡り合えたような、そんな歓びと感動だった(後略)」
地元の新聞「新潟日報」「三条新聞」、TV局、NHKまで取材して報道してくれたので、たちまち人々に知られるようになり、多くの人達が訪れてくれた。
美術館の中には、フレンチレストラン「バイロス館」があり、イギリスからはるばる船で送られてきた、東京にもないような大きな舞台のような家具が、表面に置かれていた。
ピアノもあり、そこで1年に何度も芸能人を招いて、パーティーが開かれた。
のちに紅白にも出場したクミコさん、秋元順子さんも何度も来てくれた。
新潟には女性たちが着飾って訪れるような場所はあまりない。
美味しい料理を食べてショウを見る。
一番人気があったのは、新宿2丁目のゲイバー「タミー」の2人組だ。
ひとりは日劇ダンシングチームの出身だから歌も踊りもうまい。
もうひとりの若者はシャンソン歌手だった。
サービス精神旺盛な2人のショウは、新潟の女性を喜ばせ、二度も招いたこともあった。
時代はあっという間に変わってしまい、今は美術館の扉は閉ざされ、廃墟になっている。
美術館は税金を払えないために、北沢税務署に抑えられていたが、先日、税務署を訪れたら、国税局のものになっていた。
いつのことか分からないが、競売になるのだろうが、どうなることか。
京都のお寺や神社も木で作られている。
それは長い年月が経っても朽ち果てることはない。
イギリスから、はるばる船で送られてきた巨大な家具、どんなことがあっても朽ち果てることはないだろう。
今となってはイギリスでも、こんな巨大な家具は作れまい。
ぼくがこの世にいなくなって、この大きな家具の運命はどうなるのだろうか?
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